身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

人生の最も輝いていた時。

 今、家は引っ越しが決まっているのに汚部屋になっているし、対人関係も良好とは言い難いし、人生最悪のときだと思っている。

 最悪と思っていると思い出すのは良かったときの頃。学生時代は私の人生の中で最も輝いていたときである。

 麻布の仙台坂上から神田まで自転車で通い、内風呂もなく銭湯通いだったが、まったく苦にならなかった。

 仙台坂を自転車で上りきると、近所に住む外人に、手を叩いてGreat!と言われたっけ。

 朝から晩まで熱心に勉強し、成績は主席になった。気質も穏やかになって、それなりに人気もあった。

 最も、良くないこともあった。雨の日は麻布の坂で銭湯帰りにタクシーから跳ねを上げられたこと。過労なのか頻繁に目眩がしたこと。

 そんなことさえも、充実していた証として、いい思い出として蘇ってくる。結局、楽しい時期というのは、嫌なことさえも楽しい思い出になるのだ。