身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

万障繰り合わせ

 東京も本格的に冬将軍の到来という感じになってきた。

 学生時代、私は冬が好きだった。私が通っていた専門学校は2学期制で、この時期は授業内容も脂が乗っている時期だ。

 当時、私の家は麻布の仙台坂上にあり、神田駅前の専門学校まで自転車で通っていた。ママチャリで仙台坂を登りきると、外国人に"Great!"なんぞ言われたりもした。

 成績が良いというのは何度も書いたが、楽しいから成績が良いのであって、本当に充実した毎日だった。

 キチガイといわれる叔父が内風呂も駄目にしてしまっていたので、坂の下の銭湯に通っていた。梅雨時の暗闇坂なんて車に泥を跳ね上げられて悲惨なものだった(笑)。

 木造の古い家が多く、当時は越の湯(麻布十番温泉)、小山湯、竹の湯、広尾湯などがあった。今も残っているのは竹の湯と広尾湯くらいか。

 私が今の家に引っ越してきたときも木造の家が多く、寓居の裏には三軒長屋どころか10軒近く連なった長屋があった。毎日、どこかで火事があった。泊まりに来た友人が「江戸の華だね」と言っていた。

 当時は自転車での通学も、銭湯通いも、まったく苦にならなかった。今は風呂に入るのさえ大事である。自転車に乗るどころか、普通に外に出ても寒さで凍える。

 そんなものも気にせずにいられたのは、やはり楽しい勉強のためなら、そんなことをするくらい容易いという思いがあったのだと思う。

 今、主治医に、集中して取り組めるものがあるといいねと言われている。精神病など吹き飛ばすくらいの何かが欲しい。