身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

ディスクレ。

 海外貿易以外の仕事に就いている人に「ディスクレ」と言ったら何だと思うだろうか。discrepancy、つまり不一致のことで、特に信用状(L/C)と船積書類(Shipping Documents)の不一致を言う。これは、フイッチというとwhichと間違われるからである。

 さて、そんなことを考えたのは、先日、誤って記された戸籍を見て、果たして銀行を通るのかなぁということが発端である。「中之条」が「中六條」って、どう考えても違う地名だろう。記載されたのは昭和5年、筆記具は、恐らくガラスペンである。

 現在の戸籍を見ると、使われている戸籍は「平成6年法務省令第51号附則第2条第1項による改製」が行われたものらしく、手元の、どの区市町のものを見てもページプリンターによる印字なので、恐らく電算化のために全国共通にしたものだろう。

 現在の戸籍には生きている人間に関わる部分しか載っておらず、漏れている部分は改製原戸籍を見なければならないのだが、物のサイトによると「ディスクレ」よろしく改製原戸籍は「ハラコ」と呼ぶそうである。そんなことで親近感を覚えたのも、このエントリーをアップする理由だ。

 ちなみに海外貿易によるディスクレで、小文字ローマ字の「l」と数字の「1」が違っても通らなかったことがあった。それは、船会社が発行する船荷証券(B/L, Bill of Lading)で発生したものであるが、原本であるドックレシート(Dock Recipt, D/R)は私が作成しているのになぜ? と思ったら、違うフォームのドッグレシートに印字してあったので、船会社の方で正しいフォームにタイプし直してくれたそうだ。

 海運業を辞めて30年近くこれが、いまだに解せずにいる。今は全てオンラインだが、その前は、オンライン化は進んでいたものの、上の船会社や私のようにタイプ打ちのところもあった(この報告書が出された時代)。ちなみに、改製原戸籍を見ても、ガラスペンの次はタイプライターになっている。

 問題は、そのタイプライターである。ハンマー式(活字がハンマーの先についていてキーボードを叩く力で紙に叩きつけるもの)のタイプライターでは、上記の小文字ローマ字の"l"と数字の"1"の区別がないものがある。

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 これは私が持っているOlivetti Lettera 32だが、数字の「1」の部分は、インデント関係のキーが割り振られている。この機種はヨーロッパ製にしては珍しく「¥」キーがあるが、ないものが多く、それは「Y」を打って「=」を打つ。今も、たぶん「€」などは、そう打っているのではないか。

 なので、銀行に、そういうタイプライターもあるではないかと掛け合ってみた(実際に原本は、これに近い形のタイプライターで作った)。そうしたら、だって、同じB/Lに出てくる「l」と「1」、明らかに字体が違いますからと取り付く島もない。当時、私の会社と、この船会社がオンラインで繋がっていれば、発生しなかったディスクレである。

 話は戸籍に取って返す。銀行に、籍を移した日が同じだから「中之条」と「中六條」は同一のものと考えられる、と言ってもらうのが、もっとも望む対応である。ただ、両方の地名、あまりに違いすぎないか。私だって違うと思って坂城町役場に電話したくらいである。

 物理的に、今の戸籍なら、文字はコードなので訂正は簡単である。それを、ガラスペンで書いて、さらに、それがスキャンされて画像データとして残っている戸籍を、どうやって直したらいいのか。また、手続き的に、もし簡単に訂正印で直すことができたとしても、どの程度、日数が掛かるのか。

 「不安の先取り」と言われる私なので今からドキドキしている。あと、ふと思ったのだがタイプ音が大きいのに高齢者が多いのは、タイプライターで鍛えられたからかもしれない。

 

P.S. Olivettiのタイプライターが美しいといって造形美を楽しむために買う人がいる。VALENTINEなどは出したケースは邪魔だが、Letteraの専用のソフトケースは古いカメラの速写ケースのように付けたまま使えるものなので、ケース付きのものを購入することをお勧めする。ちょっと検索したらグッチが作ったケースもあるようだ。