身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

力が入らない。

 起きたら、かなり気分は回復していたものの、なにか疲れのような気怠さがあり、ふたたび2時間ほど寝てしまった。しかし、それで起きても、脱力感しかなく、自分のヒューマンダストぶりを再確認する。

 昔、といっても精神病を発病して10年以上経ってからの話だが、気が抜けたように何もする気がなくなったときがある。すでに病歴が長かったので掛かり付けの主治医がいたのだが、鬱ですね、と言われた。

 それまでも鬱病と診断されて治療を受けていたのだが、鬱といっても落ち込むといった感じだった。それだけ病歴が長くても、気力がなくなるのも鬱病なんだと初めて知るくらいだから、いかに精神病(鬱病)に関する知識が流布していないかが判る。

 少し汚い話だが、やっと昨日の検査で飲んだバリウムが排出された。早く出さないと固まりますよと言われていたので、無事に出て安心した。

 昨日は「当日持参」と書いてあって赤字で印までつけられている書類も持っていかなかった。忘れたのではなく、朝、検査日程なども書いてあるのでチェックはしたのだが、荷物を減らそうと思って持っていかなかったのだ。

 最近、自分で自分が、なにか普通でないと思う。きっと、ずっと普通のときが続くのなら勤めなどもできるのだろうが、そうでないときの方が多いのは、お読みになっている方々がの方が判っていらっしゃると思う。

 神経が異様に張り詰めるときもあれば、今日のように弛緩しているときもある。神経が張り詰めているときは、色々なことに力が入れられるのだが、そうでないときは、本当に伸びたゴムのようだ。

 

 そして、急に、なにかに駆られるように渋谷に行った。いつも通り、家の前のバス停からバスに乗った。渋谷で雨に降られた。何かしそうで、近くのauショップに飛び込んで携帯電話の契約をした。

 エントリー「電話番号を買う話。」に書いたように3G携帯電話の新規契約が終わってしまうからなのだが、11月まで、まだ猶予がある。契約する必要性すらない。しかし、何かしなければいられない気分だったのだ。

 auショップの店員は気持ちが良い人で、金を使うことに対する罪悪感もなくなった。そして、一仕事終えて(1時間以上かかった)近所のドトールに入った。

 いつもとは違う店舗だ。ほぼ全員の店員の名札に初心者マークの図が書いてある。その割には、きちんと商品が供されて、少しホッとした。この店は1階と地下に客席があるのだが、地下に商品を持っていったら席が空いていない。

 私は、御存じの通りの粗忽者なので、トレーを持ったまま螺旋階段を下るというのは、かなり緊張感を強いられるものである。他の店舗では、混んでいるときは、注文前に席のご確認をと言われるのに、それがなかった。

 まぁ、ちょっと気が利かない程度の話である。しかも相手は新人だ。疲れていたのか、そんなことにもイライラした。渋谷に着いてから土砂降りの雨に降られて、暑がりの私でも寒気がする。

 しかし、自分が店員だったら、まともに商品を出せるかも怪しい。そうすると、あの携帯電話屋の店員は凄かったな…。そんなことを考えながらバスに乗った。こんなことで疲れて歩かないなんて駄目だなと思ったが、バスに乗ったら、再び雨が降り始めた。

 雨を拭うバスのワイパーを見て、雨に対しても傘やワイパーなどでしか対応できない人間って、小さい存在だなと思った。そして、やっぱり自分も小さい存在だなと思った。そんな1日だった。