身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

女性は目的、男性は手段

 東京は都知事選を控えている。ムカつくことに今、Googleに「都知事選」と入力したら「2020年7月5日日曜日」というサジェスチョンが出たが、今日、私は間違えて選挙に行った。投票所の近くに行っても閑散としているなと思っても、そこで気が付かないところが私の浅はかさである。

 行ってしまったものは仕方がないので、そのまま渋谷に行くバスに飛び乗る。私が普段使う停留所より、3つ、渋谷に近く、しかもバス停に着いたときに丁度バスが来たので、これでチャラと思うようにした。

 渋谷では行きつけの喫茶店に入る。日曜日だから観光客が多いと思ったのだが、モノカキが仕事をしていた。渡航規制が緩まり外国人客も増え、後ろの方からイギリス訛りの英語が聞こえる。そして、イギリス訛りも何も英語はイギリスのものだものなと思う。もし、外国に関西のお笑い番組ばかり放送している国があって、標準語を話す人間が行ったら東京訛りの日本語を喋っていると思われるのだろうか。

渋谷某喫茶店のアイスコーヒー


 以前、某所に書いたが、平日、ここに来ると、今、ここにあるパワーを結集したら直木賞が獲れるのではないかと思うことがある。そして、いるのは決まって女性である。昔は女流などという言葉で括られたのかもしれないが、これだけ文学賞の受賞者が女性ばかりになると、むしろ男性のモノカキの方が珍しい。

 さて、そこで、男というのは虚しいものよのぉという話になった。端を欲したのは昨今、マスメディアを賑わせている政治家のスキャンダルである。彼らは為政者になりたくて政治家になったのではなく、政治家という「成功者」になりたくて政治家になったという話をした。

 なぜ、男性は「成功者」になりたがる人が多いのか。結局は「イイ酒飲んで、イイ女を抱きたい」ということだよね、という話になった。私は、そこに、いい車に乗りたいとか豪邸に住みたいというのもあるというのを付け加えたい。

 高校の同級生で、常日頃から「イイ女抱きたい」と連呼していた人物がいた。女性の前でもである。ちなみに女性にはモテなかった。それが、自分がモテないのは成功していないからだ! 成功への第一歩は東大に入ることだ! という、傍から見ると短絡的すぎる回答を導き出した。

 恐るべきは、そのモチベーションだけで東大に入ってしまったことである。私が通っていた高校は何人も東大に入るような高校ではなく、今年の合格者に至ってはゼロである。私は高校に恨みがあるのでザマァ見ろと思っているのだが、私の年に東大に入ったのは2人であった。

 そのうちの1人が上記の「イイ女抱きたい」君だ。もう1人は頭の出来が決して良いとはいえず、それなのに理ⅲに入ってしまい、大学に残らないことを条件に博士号を貰えたという人間である。

 それに比べればの話であるが「イイ女抱きたい」君は頭がよく、入学時の成績は下の上くらいだった。それでも、その程度の頭で東大に入れるんだという、ある意味、後輩に希望を持たせる程度の頭ではあった。成績順のクラス構成だったのだが、最も上のクラスからは東大入学者は出ないという年であった。

 入学後の音沙汰を聞かないので「ネットでポン」してみたら、一応、大学で専攻した業界に入っているのだが、かなり違う部署に配属されている。理ⅲ君ほど悲惨な人生ではないが、かなり「成功」とは遠い立場にいる。

 話は、ここからである。女性だって美味いものを食べて高い香水を付けたいが、我々は、そのために作家になったんじゃないよねという話だ。ちなみに私の生家の近所に作家志望のウダツが上がらないサラリーマンがいた。どうして作家になりたいのですか? と訊くと夢の印税生活があるからと言っていた。そういえば、彼も「イイ女抱きたい」と言っていたっけ。

 結局、彼は、文才はないものの、なんとかブロガーという職業に就き、本を出すことができた。そして、自分を「成功者」だと演出し、見せ金ビジネスで、いわゆる「キラキラ起業女子」からモテにモテた。そういう意味で、彼は思った通りの人生を生きることができるかのように見えた。ここで、「華麗なるギャツビー」を連想した方は、かなり鋭い。このブロガー氏も、育ちの良さを演出するために麻布に引っ越してきたからだ。

 しかし、見せ金は、しょせん見せ金。どうやったら無担保で借りることができるのか知りたいものだが、現在は2,000万円の負債を背負って家賃6万円のアパートに住んでいる。それも保証会社の保証を取り付けるのが大変だったそうである。彼の保証人になる人もいない。それでも受講者のいない高額セミナーを開いて、5ちゃんねるでサカナになっている。

 翻って、なぜ、文学賞の受賞者に女性が多いのか。それは、作家になりたくて作家になる人より、書きたくて作家になる人が多いからだ。成功者になりたいという動機でなる人がいないからだ。あえて男性の例を出すと、かつて、北杜夫先生は、張りぼての建物を見て青山脳病院も長くないなと思ったそうである。筒井康隆先生も、犬も歩けば作家に当たると言っていた。

 イイ女抱きたい、そのために成功したい、そのために作家になりたい、という図式は、女性から見ると、なんか馬鹿げている。冒頭に出てきた作家女史によると、モテない部分を「成功」で埋めていると思うと、人間としての魅力がないって虚しくなると思うのよね、ということだ。