身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

ひとりサイゼ。

 家の近所にオフィス兼商業施設が建って数年が経つ。いわゆる都市再開発で、マンションなどを潰してオフィスとタワーマンションの高層ビル2棟と、もともとマンションに入っていたテナントを入れた商業施設と、その脇に元の町工場を入れた工場棟と元の住民が住む普通のマンションがある。

 今の家に引っ越したとき、不動産屋に、そちらのマンションも勧められ、そちらのマンションの再開発は上手くいったので、今のマンションにしたことを少し後悔している。そちらの、ということは、こちらのマンションの再開発計画も具体化しているからで、それが上手く行きそうにないからだ。

 今の家の再開発のときは居続けることはできず出ていかなければならないなと思い、不動産の広告などに目を通しているが、家の近所のマンションは築年数が古くても意外と高い。そして、これまた、この家に引っ越すときに候補に入れていたマンションが耐震工事などをしてヴィンテージマンションブームで値上がりしていて、自分が見る目がないなと思った。

 港区に住む理由は3つある。1つは交通の便で、2つ目は社会福祉の面で、3つ目は故郷だからだ。富裕層が大挙して引っ越してくるのは主に1つ目の理由で、富裕層がいるから社会福祉が充実していると言われればグウの音も出ないが、しかし、社会福祉など関係ない、また、移動には数千万円の自家用車しか使わない人々が港区である必要性というのが、よく判らない。さながらソウルにおける江南である。

 そんな商業施設には開業時からスターバックスサイゼリヤがあり、居酒屋以外の飲食店としては(サイゼリヤも広義では居酒屋だが)ドトールとかベローチェのような価格帯のチェーンではない喫茶店が1店入っていた。そこがタリーズになったというので、フラッと出掛けてみた。

 高… と思った。夏至を過ぎて高くなった陽も暮れかけていて、せっかく外に出たのだから食事を摂っていこうかと思っていた。外から見た天井から迫り出しているメニューにパスタの写真があり、軽く、この辺でも食べていこうかなと思い店に入ったら970円だった。店員に、持ち帰りかどうかとか何か訊かれたが、反射的に、あ、いいです… と言って店を出ていた。

 そうしたら、この界隈では老舗のサイゼリヤである。ファミレスの均一価格というのが、いかに有難いものか。しかし、土曜日の夕食時に、1人でサイゼリヤに入る人などいないだろうなと思ったら、意外と家族連れが少なく"おひとりさま"が多い。全体的に見ても、むしろ、タリーズより人が少なかった。ちなみに、ここに入っているスターバックスは、なぜか犬を連れてくるのが地元の富裕層、あるいは成金のステータスになっている。

サイゼリヤのペンネアラビアータ



 何かスパイシーなものを食べたくて399円のペンネ・アラビアータを頼む。私は訪問看護を受けていて、その看護師は整体師の資格を持っているのでストレッチをしてくれるのだが、それで血行が異様に良くなり、昼、ウトウトと寝てしまった。そんな状態で酒を飲むのも怖いし、看護師には1滴も飲ませないと言われている。男性なのだが、かなり怖い人である。

 酒を飲まないと時間が経つのが遅い。そして、周囲を見ると、"おひとりさま"は皆、本などを持ち込んで勉強している。Foursquareの口コミを見ても勉強ができるとある。まさかフラッと夕食を摂りに来て勉強をしようなどという想定はしておらず、これは失敗したな… と思った。今度から、夕刻は、無理して遠くの喫茶店に行かず、ひとりサイゼで勉強をしようと思った次第だ。