身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

ジェントリフィケーションと土地への愛着。

 出先でFacebook広告から導入された雑誌記事で読んだので出典が明らかでないが、森ビルの社員が虎ノ門・麻布台プロジェクトの予定地には「港区は下町とは違って土地への愛着がない戦後に引っ越してきた新参者」(と解釈した)が多く用地買収が難航しなかったとのたまっていた。

 住んでいる人から見るとイヤな感じと思ったのだが、たしかに周りを見ると事実かもしれない。寓居も再開発に入っていることは述べたが、建て直したら最も安い部屋でも1戸あたり数億円とも言われていて、それは、すなわち出て行けということになる。卵が先か鶏が先か知らないが、それは新参者が多くなるはずだ。

 同じ媒体に、芝浦は比較的、安いと書いてあり、帰って相場を見ると開発が最近なので築浅だがファミリータイプが1戸8,000円前後する。寓居と同じ程度の広さの部屋は投機用に作られているだけで、例えば風呂とトイレがユニットバスだったりするのだが、家賃が月額20万円とかする。

 この前、港区観光ボランティアガイドの案内で夜間、芝浦を散策したが、そのとき、明かりが付いている数多ある部屋を見て、あれだけの成金さんが住んでいるんですよと吐き捨てるように言っていた。このご時世に、小学校も新規で建築しているそうだ。

 そして、恐ろしい広告を目にした。「年収5,000万でも買える」とある。私は、正直、サラリーマンの年収というのは判らないのだが、私がサラリーマン辞めた15年前の30歳のときの年収は幾らかと源泉徴収票を足してみると300万円ていどだ。それから15年たつので昇給があったとしても、私の近隣住民は私の10倍以上の年収があることになる。

 私は「土地への愛着がある戦前から港区に住む古参者」(途中、千代田区荒川区を挟んでいるが)なのだが、考えれば私の育ちが松戸市の郊外で、同級生たちの親が港区で近隣に住んでいたということは、「戦前から港区に住む古参者」が住む住居の適正価格は松戸ということになる。同級生たちに年収は怖くて訊けないが、家賃は10万円、1戸建てを買った人間は3,500万円ていどだ。1戸建てを買った同級生たちは、それなりの広さがあるが、賃貸で借りている人たちは、よく親子4人で住んでいるなと思う広さだ。私のネットストーカーは、私を年収5,000万円の人が住むような高級住宅地に住む金持ちのバカ息子と書き立てたが、生計は障害基礎年金のみだし築40年の狭い部屋なので、同級生が住む賃貸住宅より安い。

 さて、私が麻布から白金に引っ越して驚いたのは、戦前から住んでいる人たちが、皆、土地を持っているということだった。繰り返し書いているが、松戸で、親が青山に住んでいた人たちは団地に住んでいたし、私の親を含め麻布に住んでいた人たちで、こと勤め人において麻布・青山で土地を持っている人の割合は極めて低い。

 私が追い出された麻布を含め、そこに土地を持っていない人たちが住む場所は、どんどんと再開発で追い出されてしまう。そして、やってくるのは、我々が住んでいるのは一等地だから、それを汚すような貧乏人や障害者は住むなと声高に叫ぶ人たちだ。白金は土地を持っている土着の人が多いためか、せいぜい聞くのはタワーマンションを建てるに当たって有名な屋敷の空中権を手に入れたということぐらいだ。

 ちなみに20年ほど前、寓居マンションのベッタリ隣に高層マンションが建とうとしたとき、寓居マンションの住民にも高輪という一等地に安い賃貸マンションなど相応しくないと反対運動を起こした住民が多数いる。そして今、彼らは自分が住むマンションがタワーマンションになると聞いたら私のような住民を気にせず喜んでいる。
circumstances.hatenablog.com

 

 寓居は、バイパスができ、それに合わせて境界線が変わり、住所こそ高輪になったが、町域は白金である。当時から、そういう歴史背景も知らない人が多かったのだが、最近、駅名に合わせて白金高輪などと呼ばれるようになり、それを鼻高々に名乗っている人がいる。白金高輪という住所は、どのへんになるのですかと訊かれたが、白金と高輪はあるが、そんな場所はない。

 寓居の再開発を含めて、周りのタワーマンションは、すべて建物の名前に白金高輪という名前が入っている。三田にあっても南麻布にあっても駅から歩いて20分でも入っている。たしかに、土地に愛着がないと言われても仕方がないかなと思う。同時に、芝浦が比較的、安いという理由も判るのだが、成金と呼ばれたくない人、土地に愛着を持ちたい人は、自分で調べて欲しい。