身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

固有名詞に愛着を持つこと(鷺沢萠『ユーロビートじゃ踊れない』を読んで)。

 以前も書いたが、鷺沢萠先生は京浜工業地帯の育ちである(出回っているプロフィールとは違うが著書の中に書いてある)。他方、私は東京の山の手の生まれで、小金原という松戸の郊外の住宅地の育ちであることは、もう数度も書いた。

 この小説は舞台は横浜博が開催される前のみなとみらい地区で、赤レンガ倉庫は、ただの古い建物として描かれている。地名は出てこない。日本丸についての描写に至っては

大きな帆船はもうとっくの昔に動かなくなったもので、今はただ駅裏の埋め立て地の脇の汚れた海面に浮かんでいるだけだ。

 という有様だ。日本丸という言葉が出てこないので、読む人によっては、これは日本丸ということすら判らないだろう。横浜の友人に、この描写だけ見せたら、海王丸か判らないな… といっていた。

 同じ本に入っている『少年たちの終わらない夜』でも、以前、慶應女子がK女、世田谷学園がSと記されていることがあった。同様に出てくる麻布(麻布中学・高校)が実名だから判る。これも、高校だというを判らせるだけで、固有名詞は使いたくなのかなとさえ思える。

 この小説も、ネタバレしてしまうと、ユーロビート本牧(これも本牧という言葉は出てこない)のディスコでは絶対に掛からない曲で、そこで踊っている主人公はユーロビートでは踊れないということだ。

 そして、ユーロビートを聴いてサンタナフォルクスワーゲンの車)に乗って私立の大学に通っている人が住んでいるのが東京の高級住宅街ということになる。これも固有名詞が出てこないが田園調布である。

 そして、私が昔、ペンネームとして使っていた、今、住んでいるところの地名が、サンタナのようにエポックな名前として出てくる。これも、名前こそ出てこないが、登場する店やレストランも全て知っている。

 検索でヒットして身バレがしてしまうので書けないが、私が住んでいる場所は、なかなか書くのが難しい地名である。東京の人、いや、港区の人、白金の人でも、まず書けない。だいたいの人が似ている間違えた字を書くし、交通局の案内も、最近まで、その間違えた字だった。

 かつて、富山で、カメラが置き引きにあったときに被害届を出しに警察署に行ったら、警察官が書けたのにはビックリした。集団就職で東京に出たことがあるそうだ。それを、鷺沢萠さんは、きっちりと間違えず書いている(編集校閲で止まったのかもしれないけど)。

 私の住んでいる場所は、かつて、新聞で、さとう珠緒さんが、ここに住みたいと書いていた、知名度のある場所である。しかし、煩い下町の商店街で、けっして良いブランドイメージはない。この発言も、あえて高級住宅街を外したのかなと思う。

 この小説で、主人公である、未開のみなとみらいに住む人が、ユーロビートは踊れないと思うように、私の住むところは、あんなところは住めないという人は多いかもしれない。

 以前、小金原は港区出身の人が多いことは書いた。そういう人には、私の住んでいる場所を話すと、人が住むところじゃないねと言われる。他方、地方の人で港区在住というだけで目の色を変える人もいる。

 最近、ブランディングブランディングと煩いが、ブランドなんて良いイメージと悪いイメージは隣り合わせだと思っている。皆が憧れる高級ブランドというのは、物は値段ほどではないねというイメージも持ち合わせているはずだ。

 その固有名詞が良いイメージを持っていても悪いイメージを持っていても、私は、故郷などの固有名詞が付いたものには愛着を持っていたい。名前も、ストーカー被害に遭っていなければ本名のまま変えなかったと思う(今、見たらストーカーは相変わらずターゲットを変えて同じことをしている)。

 

P.S. それに続く『ティーンエイジ・サマー』を読んでいたら「『学院』や『塾高』の奴らとチームを組んでいたはずだ。」という表現が出てきて、なんなんでしょうね。