身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

知らない楽しみ。

 昨年、「知らなくていいコト」というTVドラマがあった。舞台となる週刊誌の編集部が様々な知らなくていいコトを暴いていくのだが、主人公の人生一大テーマともいえる知らなくていいコトは、どうもやるせないコトで、これほど知らない方が幸せなことはないことだったという、さすが大石静氏の原作という作品だった。

 また、国際ロマンス詐欺の被害者について吉高由里子さん演じる主人公が書いた一文が天晴だったのが記憶に残っている。こう書くのはおこがましいが、書き方のスタンスが自分に似ている気がした。まぁ、あんなに綺麗にはまとめられないのだけど。しかし、私の文章が初めて雑誌に載ったのは中学生ぐらいのころだと思うのだが、私の駄文が編集者の手に掛かると綺麗にまとまって感動を覚えた。

 さて、世の中、何でも簡単に調べられるようになった。今日も体調が悪く、珍しく娯楽小説、三浦しをん著『あの家に暮らす四人の女』という面白い本を読み始めたのに、それすら頭に入らず、本棚から鷺沢萠著『かわいい子には旅をさせるな』を取り出して眺め始めた。

 最初に目についた1編は、「乗り捨てのワナ」というものだ。例によって私なりの客観的ではない要約をすると、東北新幹線の駅で降りた後、観光をして仙台から飛行機で帰ろうと思いレンタカーを借り仙台空港で乗り捨てにしたのだが、仙台空港には羽田発着の便はなく、再びバスで東北新幹線の駅へ向かったという話である。

 また、こんな1編も目に付いた。「カンガルーの悲哀」。キャプテン・クックがオーストラリアに上陸したとき、カンガルーを見て現地の人にあれは何かと訊いた。現地人は「判らない」という意味で「カンガルー」と答えたのだが、キャプテン・クックは、それを「カンガルー」だという固有名詞だと思って、それが判らないという意味の「カンガルー」という名前で広まってしまったというもの。

 今の時代、1つ目ののエピソードは「スマートフォンでちょっと調べればわかる話」である。スマートフォンに「仙台から東京まで」と告げるだけで判ってしまう。ただ、2つ目のカンガルーのエピソードについては、このネットの時代において、諸説ある。

b.hatena.ne.jp 

 この説を間違いだとしている筆頭が、あの怪しいWikipediaである。Wikipediaほど出典が怪しい辞典はないと思うのだが如何か。Wikipeidaでカンガルーの話は嘘だという出典にしてあるイギリスのサイトには、出典がWikipediaだと記されている。バカか。

 さて、上の説を支持しているサイトも多く、真偽のほどは、私がネットでポンと調べた限りでは判らない。しかし、それを知ったところで、さして良いことがないどころか夢がなくなるだけである。

 体調が悪くて筆を進ませるのが困難になり、無理やりなまとめ方になって恐縮だが、ネット社会になっても、夢がある、知らない方がいいコトは、まだまだあるのだなと嬉しく思った。