身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

レナウン倒産で思い出すヨウジヤマモトのリクルートスーツ。

 私の母は新卒でレナウンに入り、結婚退職するまで勤めていた。そのため、私の家にあるフォーマルの服は、だいたいが社販で買ったレナウン・ダーバンだ。

 以前、話をしたように、私は大学に進むつもりだったので就職活動などしていない。会社訪問といっても、大学の入学も締め切ってから、学校推薦の会社に行ったきりである。

 当然、私のすることなどに協力する気がない親は、頼んでもリクルートスーツなど買ってくれない。何とか手に入れたスーツが、当時、ダーバンがヨウジヤマモトと共同開発していたA.A.Rというブランドのスーツだった。

 一応、ダーバンが売っているのだから会社に着て行けないようなスーツではない。当時はバブルの残り香があったので、ノーベントだし、少し、モード系が入っているかなという感じ。恐らく、流行ものだから型落ちで安かったのだろう。

 しかし、会社に行く前に学校に怒られたのなんのって。そもそも紺じゃないじゃないかと言われたが、こちらにも事情というものがある。

 まぁ、無事に社会人になり、とりあえず、最初に礼服とスーツを買った。礼服は、かなりいいものを買い、結婚式場では目立ったと友人は言う。

 1年後、一部上場の総合商社に拾ってもらい、週末はスーツを着ないでアンサンブルを着ていたものの、スーツを着る機会は多かった。そんなに沢山のスーツを持っていなかったのに、退職するまで、破けるどころか生地がテカることもなく、途中で脱落したスーツはなかった。そして、その後、体重が倍増して、それらが着られなくなった。

 今、ユニクロのスーツを見たら、私サイズがあるのは助かるが、38,000円だそうだ。私が若かったころ、スーツとは、もっと高いものだった。私が持っているものでも、定価が10万円以下の物は1着しかない。そのため、取締役に嫌な目で見られたこともあった。それでも、今のユニクロのスーツと、ほぼ同じ値段で買えた。

 持っている中で、いちばん安い紺の三つ揃えは定価6万円前後だった気がする。安さからの気軽さもあって、もっともヘビロテしたスーツであるが、今、クローゼットから出してみたら綺麗なものである。

 体重が倍増して、急に必要になっても困ると思い、サカゼンで、やっすいスーツを買ってきたが、1回も着ずに虫が食っていた。生地が薄いのだろう。

 ラルフ・ローレンが「華麗なるギャツビー」のために作ったスーツと同じものなどというものもある。これは、その性質上、既成でサイズが限られていて、YA8体形だった私には、A8でも、少しダブッとする感じだったが、そのサイズしかなかった。なので、買ってもあまり出番がなかったのは残念だ。

 体重が倍増した今、絶対にリベンジ(何に対してだ?)して、再び、それらのスーツを着られるようになりたいと思っている。