身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

岡田准一版「白い巨塔」を観た。

 山崎豊子先生が亡くなって初めての映像化となるが、感想としては思ったより良かった。

 前回の唐沢寿明版では、唐沢寿明さんは山崎豊子先生にお前に財前が務まるのかというようなことを言われたらしいが、岡田准一さんの存在感は有無を言わせない。逆に、脇を固めるのが、これで大丈夫かなと思ったが、観ているうちに気にならなくなった。

 ちなみに観たシチュエーションだが、生で観ては疲れて翌日は録画で観たりということで、観る環境が一貫していない。また、私は午後10時には眠剤を服んでしまうので、朦朧として覚えていないところもある。

 最初は、落っことしていったエピソード(佐々木商店の窮状「真珠湾攻撃」など)を数えるように観ていたが途中から止めた。脚本の出来も思ったより良く、ケチを付けるべきではないと思ったからだ。

 原作では、まだ写真技術が未発達で、患部のエックス線写真がどーたらこーたらという話があり、唐沢版では、それを引きずっているのだが(もっとも構成・尺自体違うが)、医療過誤についてはスパッと割り切ってしまった点は、私は評価したいと思う。

 ただ、これだけは入れていただきたかったなぁというエピソードは、財前がナチスドイツの強制収容所を見学に行くこと。原作ではドイツのダッハウだが唐沢版はポーランドアウシュビッツ収容所でのドラマ初ロケというのが売りだった。

 唐沢版でも、何のためにアウシュビッツに行ったのか判らないという批判が多かったので、仕方がないのかもしれない。ユダヤ人の石像が出てきただけで良しとするか。原作で、財前は、その酷い事実と、それが医学の貢献に役立っているという相反する事実を見て感慨を持つ。

 第5話は先ほど、TVerで観て、そのために記憶も新しい。ケイ子と杏子の関係や佐枝子の里見に対する想いなどが落とされていなくて好感が持てた。他にも脚本には、残してもらいたいエピソードは残っていて好感が持てた。よくできた脚本だと思う。

 さて、すでに書いたが、原作『白い巨塔』では、財前が教授になり、裁判も勝ったところ、まさに白い巨塔を上り詰めたところで正編が終わっている。それで納得が行かないのは読者である。

 その読者に、さらに山崎豊子先生は納得が行かず、続編を書き出すのには、かなりモヤモヤしたらしい。しかも書き始めたら医療裁判を扱う作品を書いているというだけで取材拒否で、山崎先生としては、かなり難産の作品だったようだ(素人目には、どれも難産に見えるんですけどね)。

 しかし唯一、残念なのは、やはり唐沢版同様、財前の遺書が里見に宛てたものになっている点。そんなおセンチなことをいわず、冷徹に医学的所見を大河内に進言しているのが里見を感動させるのだ。