身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

一戸建て。

 実家にいる。東京の寓居と違って一戸建てである。土地もベラボーに広い。バブルのころは都心のマンションと同じくらいの値段だったが今は1/4という恐ろしい下落の仕方である。

 まず、町に住宅がない。寂れた。同級生も皆、故郷、すなわち東京に戻っているので当然である。かねがね言っているが、「住めば都」という言葉は、都が住みやすいという前提でできている言葉である。

 また、できた当時は高級住宅街であったから、鎌倉や田園調布よろしく高層住宅が立てられない条例がある。結果、マンションなど住宅に供する建物が建たず、立つのは老人ホームばかりである。商業も廃る。

 あと、駅からバスで20分なので車がなければ生活できない。所得税非課税の私にとっては車を持つなどということはできないのであって、せっかくのガレージがあっても関係がない。

 しかし、とも思う。都心のスクラップ&ビルドより、このほうが落ち着いた生活ができるかもしれない。親が死んだら実家に戻るのですか? と訊かれて、それはないと思っているのだが、ひょっとするとである。

 それでも、都心までバスと電車で2時間。こうなったのも営団(当時)が半蔵門線延伸計画を反故にしたからなのだが、その時間を考えると、やっぱりないなと思う。