身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

職業と貴賤。

 ふと、昨日のエントリーを書いてから思い出した。

 私は新卒で乙仲と呼ばれる海運関係の会社に入った。企業の輸出入を代行する会社だ。大学に行くはずがふいになり就職活動ができず、出身の専門学校に押し込んでもらった。業界の常として残業が200時間あるブラックな企業だ。ただ、優秀なOBがいる学校は得である。1年後には総合商社のうちの一つに、これまた学校推薦でキャリアアップ転職した。

 さて、私のキャリアはどうでもよく、最初に入った海運関係の会社のことだ。私がいた部署は某大手電機メーカーの担当で、メーカー側の物流部門には、さるTVニュース番組の有名な解説者の娘がいた。彼女は海外の現地法人向けの部品の輸出担当者で、どのメーカーでも、その手の仕事をしている人は、肩書こそ海外営業であれ現地との生産調整をして部品の出荷伝票を切るのが主な仕事である。

 しかし、そのTVニュース番組の解説者は、番組で女子新卒者のニュースを聞いて、「女の子の就職率が上がったっていっても売り子さんじゃねぇ」と言ったのだ。アンカーとアナウンサーから鋭い視線を浴びて口をすぼんだが、私の娘は… まで言いそうな勢いだった。

 また、転職した商社では某国会議員の跡取りがいた。事業部が同じだったので私とその人の両方同じ社内電話帳に載っていて担当顧客が書いてあるのだが、私がいた部署では仕向け地ごとに担当者を分けていたので私の担当は台湾・香港などと書かれていたのだが(欧米でないところが他人のことをいえずアレであるが)、その、のちの二世議員は「国内雑」と書かれていた。

 海外と国内なので彼の仕事内容を正確には把握していないのだが、のちに議員になってからの彼のインタビュー記事で、工場を回って仕事を取ってくるのは楽しかったと語っていた。彼は女優と結婚して、周りが呆れる(羨むではない)おしどり夫婦で有名である。ただ、政治家としての業績は聞いたことがない。大臣を数多く輩出している家だが大臣経験もない。自民党の三役もない。私立大にも一浪して入っている彼にとって、商社マン時代が最も充実した時代だったのかもしれない。

 肩書だけ立派で会社内で伝票を切っている仕事と、本当にネジひとつのために駆けずり回る仕事、どちらが「実」に近い仕事なのか。ちなみに、机に向かって何時間でも事務を執れる私でも「売り子さん」はできない。昨日の例でいえば、時給800円で、座っていることが仕事の方が、まだ悦びをもってできる。

 私の恩師の言葉に「職業に貴賤なし、職業の中に貴賤あり」というのがある。これは、お前が言うのかということも含めて、なんか違うなと思うのだが、貴賤とは言わなくても遣り甲斐というのは職業の間でも職業の中でも差が大きいと思う。