思い出す架空の情景。
母と納骨のことについて話す。私は、そんなものは平気の平左なのだが、自分の家にお骨があるのが嫌らしい。
さて、うちの墓は都営の八王子霊園にあり(八王子といっても名ばかりで高尾である)、そういえば作家の連城三紀彦氏の墓もあったのではないか。しかし、連城氏の実家は寺だったはずだから、この記憶は正しくないだろう。
私は連城作品を多く読んだ人間ではないが、直木賞を獲った「恋文」は、読んでいたら切なくて涙が出た。
後に「恋文」のモチーフだけ使用したTVドラマができた。短編を連続TVドラマにするのだから編成替えどころの騒ぎではない別物のはずだ。
はずだ、というのは、脚本は名手・岡田惠和氏の作で、今も第一線を走っている名優たちのオールスターキャストといえる作品なのだがTVドラマの印象は全くないのだ。
そう考えると、この物語は決して、ストーリーを読ませる作品ではないだろう。身も蓋もなく要約すれば200字で足りそうな気もする。
ただ、「恋文」と聞くと、主人公が妻のマニュキュアでガラスに花びらを描く、あの光景が目に浮かぶ。
もう、その時点で夫婦は取り返しようがなくなっていたのだが、あの夫婦は、どうなったのだろう。
そんなに、ストーリーについての記憶は心許ないのだが、あの光景、しかもTVドラマで撮影されたものではなく文章で描写された光景が、今でも鮮明に目に浮かぶ。