身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

盲目を支える理性(辻村深月著「盲目的な恋と友情」を読んで)。

盲目的な恋と友情 (新潮文庫)

 

 「恋」と「友情」の2編からなる作品で、「恋」を読み終わってから数週間、放っておいたら人間関係を忘れ、最初から読み直した。今度は「恋」だけストップせず、最後まで、ほぼ一気に読み通した。

 面白かったのだが、感想を書くには、なかなか難しい本である。同氏の作品は「ツナグ」以来なのだが、凍った道路に放水するようなギミックは本作でも再び投入されていて、最後まで見通して書かれた物語に破綻はない。

 「恋」と「友情」は、学生時代から主人公の結婚式までの時の経過を違った登場人物の視線から描いた作品であるが、登場人物によって、こうも見方が変わるものかと驚かせる。「友情」の主人公の考え方は、私にとっては、なかなか共感し得ないないものだが、そのような考えに至る客観的事実が記されていて、そういう境遇なら、そう考えても仕方がないと思わせる。

 その「友情」の主人公の行動は盲目的といえば盲目的なのだろうが、かといって一時の感情に流されて無鉄砲な行動をしたのではない。結末に大どんでん返しがあるのだが、それも、それらの緻密な計算の上で行動しているから怖いともいえる。

 その視線からいうと「恋」の主人公の恋愛も、「友情」の主人公に欲と快楽と罵られるほど理性を失っているようには思えない。エポックメーキングな事柄として書かれているエピソードにも、さほどの意外性は感じられない。

 「盲目的」というタイトルは、それらの思考へのアイロニーとして付けられたのかもしれない。一時の感情で行動を起こしたのではなく、理性で計算しつくした上で、それの行動が生まれたと思うと、共感し得ない考えに基づくために狂気が引き立つ物語となった。