身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

結界。

 昨日は、酒飲みの世界への結界を超えなかった。と、ここまで書いて、自分で結界の意味を正確に把握していないことに気が付き、辞書を引いた。

 

 この定義によると、酒飲み世界というのは聖域ということになる。聖域というより、むしろ英文学者のよくいう"Where Angels Fear to Tread"(天使が踏み込むのも畏れるところ)という感じがする。

 神聖なる天使は、そんな酔っ払いの世界になんか足を突っ込まいよ、ヤダヤダ、といった感じか。酒を飲めるのは大人なんだから、酒飲みの世界は大人の世界という気がするのだが、酒飲みは往々にして、どうしようもない。

 昨日は、エントリーを書きあげた(脱稿というには大袈裟な気がする)直後に雨が止み、蒸し暑い中を歩きに行った。いつもなら渋谷から歩くが、いつでも引き返せるように家から歩いた。

 とりあえず麻布十番へ。ただ、麻布十番商店街の正面玄関である一の橋交差点ではなく、麻布という地名発祥の善福寺という寺の方から行った。

 この寺は、越路吹雪の墓があるということで有名らしいが、私の世代でも越路吹雪って誰? という状態なので、おそらく、このBlogの読者の方も判らないだろう。昭和天皇の従姉妹が嫁に来ているそうで、そう説明した方が通りが良いと思うが、まぁ、古刹である。

 私が麻布に住んでいたとき、その門前に、志村けんさんが常連というのを売りにしている飲み屋があった。

 常連が店を紹介するのならともかく、自らの客を客寄せパンダに使うのは、なんか戴けない気がした。どうせ潰れているんだろうなと思ったら、まだあった。写真を撮ってあり、載せようかどうか迷ったのだが、さんざん罵った挙句に載せたのでは、私の見識を疑われるので止めておく。

 本当かどうか知らないが、童謡「赤い靴」で、異人さんにつれられて行ったはずの女の子は、実は麻布鳥居坂下にあった孤児院で亡くなったとの説があるとかで、商店街では、その女の子、きみちゃんの銅像を商店街の中に建てている。

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 ここで引き返そうかと思ったが、六本木ヒルズまで行ったら涼しいかもしれないと思い、麻布十番商店街を、一の橋とは逆方向に進む。

 昔、ここには越の湯という銭湯と、演芸場(?)を併設した麻布十番温泉という温泉施設の入ったビルがあった。銀座の金春湯って、そんな感じだったよなと思い調べてみるが、今の金春湯は演芸場部分が独立している様子。

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 壊した後は何になるのだろうと思ったらホテルとのこと。白金もそうだが、商店街から店がなくなっていく。まぁ、シャッター商店街になるよりマシだし、白金みたいにマンションになるよりもマシだとは思う。

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 商店街を抜けると、もう、そこは六本木ヒルズ。正直いって、完成するまで、どこまでが六本木ヒルズなのか判らなかった。ちなみに、この「ゲートタワー」という建物には、商店街の延長ということか、食品スーパーが入っている。

  そして、けやき坂。よく知らないのだが、アイドルグループのAKBグループには「けやき坂」と「欅坂」という2つのグループがあるそうだ。地名は平仮名で「けやき坂」。六本木ヒルズと一緒に作られた新しい坂だ。そのかわり、元麻布寄りにあった玄硯坂が廃止(?)になった。

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 坂下に、TSUTAYA TOKYTO ROPPONGIがある。そこにスターバックスコーヒーがあるのだが、まだ意識高い系という言葉がない時代にテラス席で13インチのマックブックを叩いている人たちがいて、それ以来、スタバというもの自体、なんか意識高い系の店のような感じがして入りがたい。

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 けやき坂を上っていくと、右側にスタジオが見える。Abema TVのスタジオらしい。サイバーエージェントって、原宿にスタジオを持っていなかったっけ? そもそもAbema TV自体、観たことがない。不勉強だなぁ。

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 なんか、六本木ヒルズは、よくいえば開放的、悪くいえば空調が効きにくい造りになっているので、ホテル・グランドハイアット東京のロビーに逃げる。

 このBlogを常に読んでいる方ならご存知かと思うが、この1週間程度に、都ホテルセルリアンタワー東急ホテルに続いて3軒目のホテルロビーとなる。良し悪しは別として、ロビーにも、それぞれ、ホテルの色というのが出ていて面白い。

 そして、この華美なエレベーターを見て、いかにもアメリカ資本らしいなぁという感じがした。なんかカジノとかありそうと思うのは、私がアメリカ映画の観過ぎだろうか。

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 六本木ヒルズからの景色も時とともに変わっていて、東京という町の変貌が見て取れる。どーんと目に入ったのが住友不動産六本木グランドタワー。

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 寓居から見るとの違って、真ん中のトライアングルだか何だかが近代的。ちなみに、今日、寓居から見ると、こんな感じ。しかも、写真だから拡大さているけど(景色の圧縮効果を見よ!)かなり上の方だけが辛うじて見える。

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 何か食べようと思うが、六本木ヒルズは、ほとんどがオフィスなので、ランチ難民が大量にいて、手ごろな店には入れない。六本木交差点に出ることにする。途中、閉店した青山ブックセンター六本木店の前を通る。

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 今でこそ青山に本店があるが、私が住んでいたときは、ここが本店だった。たしか1号店は自由が丘で、いつかは青山にという意味で青山ブックセンターと名付けられたと記憶している。

 午前2時までの深夜営業が売りで、深夜営業しているからといって、そのラインナップは、一流書店だった。特に建築・デザインでは専門書店並みの品揃えだった。学生時代に住んでいた家から歩いて行けて、パジャマの上に何か引っかけて行くと、夜遊びで気張った格好をしている同級生に会い、地元感が出ていいなどと言われた。

 そして、六本木のファミレスで昼食。500円。その日の夜に会う友人に貧しいと言われるが、自分では、そんなことは意識したことはなかった。逆に、昼食に何千円もかけていたら分不相応だろう。

 そして、鳥居坂を、再び麻布十番に降りる。今は戸籍謄本は電子化されてコンビニで取れるが、私の戸籍は、ここにある港区役所麻布支所にあり、区役所の各支所がファクシミリで取り寄せていた。その前の、ここでなければ取れなかった時代も知っている。

 鳥居坂のランドマークといえば東洋英和女学院だろう。最近は、NHKの朝の連続テレビ小説で有名だろうか(これも観てないけど)。私は、神津カンナさんの母校というイメージが真っ先に浮かぶ。母親の中村メイコさんも、ここだっけ?

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 スヌーピーミュージアムというものもできていた。入場料が高い上にジブリ美術館のように予約制かもしれない。未確認なので、いらっしゃる方は調べてください。

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 そして、暑さの中、這う這う(ほうほう)の体で帰ってきた。歩数は、ほぼ、お台場往復と同じだった。そんなに距離はないのに、六本木ヒルズの中を歩いたのだろうか。しかしシャワーを浴びても、まだ余力が残っている。

 そして、前日に図書館で借りてきたを読もうとするが、捗らない。どう言葉で表現していいのか解らないが、なんか、まだストレスが発散できていない気分。

 数日前、友人に食事に誘われたけど断ったことを思い出す。私は、他人に誘われるのは嬉しいので、あまり断らないのだが、この人と食事をすると話が長くなり、夜の時間を有効に使えないので、最近は断ることがある。

 そして、今なら空いてるけど、どうする? とEメールすると、今、世田谷にいるから遊びにおいでよという。まぁ、こういう機会でもないと世田谷なんて行かないしなぁ…。というか、ずっと、等々力は世田谷区ではなく目黒区だと思っていた。

 世田谷の、その友人が、ぜひ食べさせたいというケーキをご馳走になりながら、話をする。私は昼食のために買っておいたセブンイレブンの100円おにぎりが残っているのだが、なんか食べる気がしなくて、夕食も一緒に食べることにした。

 前述の、500円の昼食は貧しいというのは、このときに出てきた会話。夕食もファミレスだったのだ。そして、そのかわりに時間貴族だけどな、と言う。

 そこで私は、ガキのように直前に読んだ本の内容を思い出す。たしか鷺沢萠さんの「歴史という名のイタズラ」(『この惑星のうえを歩こう』所収)に、頑張って環境を良くするのと、おおらかな自然の中でのんびり暮らしていくのと、どっちが幸せなのかは「人類をいつまでも悩ませる難問であろう」と書いてあったな…。

 そういえば、鷺沢萠さんの終の棲家(死因は自殺)は、この、目黒区と世田谷区との境らへんではなかったっけ…などと思い、本当、私は直前に読んだものに左右されるなと、自分の単純さを自覚した。

 それで、また遅くまで話し込んで、昨日のエントリーのアップには間に合わなかった訳だ。よく、酒を飲まずに、それだけ話せるものだ。

 

 さて、今日だ。ネットの通販で買ったものを渋谷のユニクロに取りに行く。ユニクロは5,000円以上で送料が無料なのだが、買ったのは1,280円のシャツ3枚。これも、痩せていたときに42㎝だった首回りが50㎝になり、なかなか売っている店がない。

 Tシャツを買って5,000円以上にしようと思うが、サイズがない。店に行くと大きなものと小さなものはネット限定サイズと書いてあるのに、どこに在庫があるのだ。どうせ渋谷は頻繁に行くのだからと送料無料の店舗受け取りにした。

 前髪が鬱陶しいし、暑いのでサッパリしたいと思い、散髪もする。あぁ、服を買って床屋いって金を使ったな… と思いながらも、行きつけの喫茶店へ。

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 ここにも本を持ち込んだが、2日前と違って、なにか居心地が悪い。たぶん、単に持っていった本がつまらなかっただけ(笑)。また気晴らしに歩きたいと思うが、汗をかけないスウェードの靴にリネンのズボンという格好で来てしまった。

 そして家に帰って、こうして新しいエントリーを書いている。もう陽も落ちて涼しくなったし、歩きに出てもいいが、暑さで参っているのか、目眩がする。

 昨日のおにぎりをどうしようと迷いFacebookで訊くと、皆、臭いを嗅いで、酸えた臭いがしなければ大丈夫だというが、冷蔵庫に放り込んでおいたのと、具が肉なので、しょうじき臭いが判らない。

 まぁ、食べて死ぬことはないと思い食べた。気分が悪いのは、そのせいもあるのかな。しかし、とりあえず今日は、これから、酒飲みの世界への結界を超えることはないだろう。