今日も渋谷から歩いて帰ってきた。途中、恵比寿で、今風の、しかし、どこか真面目そうな店員が表に立っている喫茶店に寄った。旨いというほどのものではなかったが、甘みと酸味のする個性的な味だった。
帰りに、その店員と話をした。独特の方法で抽出しているらしく、その味は、雑味がする一歩手前の味のようだった。そして、店員に、お客さんは、どちらにお住まいなのですかと訊かれた。
白金で、歩いて帰る途中なのですよと答えると、店員の目が輝いた。お仕事は、何をなさっているのですかと重ねて訊かれた。私は、先ほど買ったベストセラー小説を差し出し、私だということは内緒ですよと言って店を去った。
村松友視先生の同名異作小説です。表題作『作家装い』が含まれる作品集は、こちら。