身の上話

身の上に起こった、嘘のような本当の話。タイトルは佐藤正午作品から。

命懸けでコンピューターのルーター越えをした話。

 昨日、「日本映画専門チャンネル」で一挙放送されたTVドラマ「アンフェア」の特別編”Cord Breaking”(カタカナ表記のものもあり)を観た。"Double Meaning"(同)というのも録画されていたが、映画の続編ということで、映画は放送されなかったので観なかった。

 その中で、戦慄を伴う既視感を覚えたのが、濱田マリさんが演じる蓮見が、篠原涼子さんが演じる雪平のPCを経由して警視庁公安部のホストコンピューターにアクセスする話。それを雪平が上司に責められる話。下記の経験が、実にリアルに重なったのだ。

 

 私は、府中市の奥、国立に近い私立の精神病院に謂われなく幽閉されていたことがある。そこには、知人が薬漬けにされて廃人同然にされていたり、思い出しただけで気が狂いそうな思い出がたくさんある。

 悔しいけれど思い出したくない話…。記憶の封印を解いたら人格が崩壊しそうなことが沢山ある。パンドラの箱のようなものかもしれない。個々のエピソードは感情が抑えられる範囲で小出しにしたいと思う。

 さて、私は拘置所に拘置された経験もあるのだが、拘置所以上に人権もアクセシビリティーもない世界だった。拘置所だって手紙は出せるし、自腹(拘置所のトリセツ? みたいなものの文言だと「自弁」)で物品も購入できるが、それもないのだ。

 医師の裁量の名で、拘置所以上に自由が奪われている。外部に電話を架けることも許されない。金銭もテレホンカードも持たせてもらえないし、公衆電話の前には常に監視がいる。目を盗んで公衆電話の赤ボタンを押して110番通報した患者もいた。

 この事実だけで、いかに異常な病院にいたか判ってもらえると思う。法務省への電話も架けさせないというのは違法な人権蹂躙だ。任意入院なので強制退院を通告したら、主治医に強制入院に切り替えると脅された。

 

 脱走を試みた患者もいたが、注射を打たれ、どこかに連れていかれてしまった。病院から出られればタクシーを捕まえて警察署に逃げ込もうと思ったが、建物すら突破できない。何もできないが故に、外部に助けを求める方法を模索していた。

 数週間が経って、OT(作業療法)というものが始まった。産廃のように人間を処理して金を取っているような病院だから、治療のためではなく、金のためだ。ちなみに拘置所内では手錠は一切されないが、その病院では部屋を移動するたびに綱に繋がれた。

 名目ばかりの作業療法、50畳ほどの部屋に100人程度の患者が詰め込められて作業なんかできる状態ではない。しかし、患者が使えるPCが1台だけあった。しかも、よく見るとLAN線が繋がっている。これしかない、と思った。

 コマンドプロンプトを立ち上げてTelnetを起動したら、表現自体も忘れているが、たしか24ビットだか何かのサブネットマスク?で、IPアドレスが192.168.0.1?がゲートウェーだった。ciscoルーターのコマンドを打ち込んだら容易に外部にアクセスできた。

 

 あるいは、これも記憶違いで、そんな大したことはしていないのかもしれない。私は後にも恐怖体験が多く、正直いって当時の記憶は、こうやって掘り起こだして、ようやく出てくる。それに伴う知識なども忘却の彼方にある。なので、これ以上具体的に、何をしたのか、まったく覚えていない。

 方法は忘れたが、私は自分のBlogの更新に成功した。当時は、Blogを書いている人など僅かで、私のBlogは1日に3万PVのアクセスがあった。Blog記事の出版の話もあったが家族に潰された。この入院とも関係するので後日、書く機会があると思う。

 それが、である。数日たって、私は警察署の取調室なんか笑っちゃうような狭い部屋に呼び出された。ここからが恐怖を伴う既視感だ。まさに、あのドラマのようにサーバーのアクセスログを裁判所の令状のごとく見せ付けられた。So-net BlogのWebサーバーにアクセスしているだろうと怒鳴られた。

 それだけならWebの閲覧で済まされることだろうが、どういうわけか私のBlogの存在を突き止められていた。そして、最新のエントリーは病院のプライバシーを侵害するものだ、と言われた。名誉棄損と言われなかったのは事実を認めたということか。

 そして「レスが60件、付いているから記事ごと消せ! レスを読んだら生きて出られると思うなよ、レスを読まずに元記事を消せ! そして訂正記事を書け!」と言われてサーバールームに連れていかれた。

 

 今、私は、生きて、人権が約束された場所で、このエントリーを書いている。自由に情報にアクセスできる状態になって、ネット上で、その病院について調べたが、悪評は一切ない。見掛けるとブックマークしているのだが、半日後には消えている。

 唯一、Yahoo!ジオシティーズにホームページからのリンクがない1ページだけあったのだが、Webmasterに連絡を取ろうとしたら、その病院で亡くなったという…。この恐怖体験、誰も信じてくれない。

 

 新直木賞作家・佐藤正午先生の小説を地で行くような体験をしてしまったが、かつてのBlogで具体的に書きすぎて圧力を掛けられ、そのために今までのBlogを全て閉じて、ここにBlogを再開するものである。タイトル「身の上話」は佐藤先生の小説から戴いた。